取材レポート

須磨浦小学校

ほぼ全員が中学受験に挑む環境だからこそ出来る指導で、高い基礎学力を育む

1902年創立と兵庫県でもっとも古い歴史と伝統を誇る須磨浦小学校。ほとんどの児童が中学受験を経て、私立・国立中学校に進学するという環境のため、同校では受験指導に力を入れています。ここ6年間の進学先には、灘・甲陽学院・神戸女学院など最難関校の名前も連なります。新型コロナウィルス対策のための臨時休校中の取り組みや高い基礎学力を育む教育について、岩渕正文校長先生と佐山公章教頭先生に話をうかがいました。

須磨浦小学校 岩渕正文校長先生・佐山公章教頭先生のお話
岩渕正文校長先生

岩渕正文校長先生

佐山公章教頭先生

佐山公章教頭先生

須磨浦小学校 岩渕正文校長先生・佐山公章教頭先生のお話

授業動画配信や双方向授業の実施を通し、子どもとのつながりを維持

コロナ禍の中でしたが、須磨浦小学校では4月2週目に始業式と入学式を迎えることができました。その際、教科書のほかドリルやプリント類などの宿題を配布。子ども達は家でそれらの課題に取り組み、出来たら学校に送るという形で休校期間中の学びはスタートしました。

郵送で子ども達とのやりとりを進める一方、教員は授業動画の作成に着手。授業動画は、4月3週目にはYouTubeの限定配信機能を使って子ども達の元に届けられました。GWに入るまでに2回、それ以降も曜日を決めて週2回、授業動画の配信は続けられ、一ヶ月半の間に約100本の授業動画が配信されたそうです。

また、GW明けからはZoomでの双方向授業もスタート。兄弟姉妹同時在校が多いことに配慮し、学年によって曜日と時間を分けることで、全員が確実に参加できる体制を整えた上で配信されました。
双方向授業では、低学年は皆で顔を合せて話をするなど、学校や友達とのつながりを感じられる内容を、高学年では通常の授業を、と学年に応じた内容が行われました。今年の文集には「Zoomで友達の顔を見られたことがすごく良かった」と書いている子が何人もいたそうです。また、「Zoomで顔を合せていたことが良い助走となって、学校再開後の授業もスムーズに行うことができました」と佐山教頭先生は話します。

学校再開後の授業は、1日の授業時間を1コマ45分×6時間から1コマ40分×7時間に変更し進めた結果、授業時間数こそ例年にはやや満たなかったものの、カリキュラム通りの内容を修了できたとのこと。定期的に全校で受験している外部の学力テストでも、例年通り全国平均を上回る非常に良い点数を取ることができたそうです。

今回の休校措置を踏まえて、以前から検討していたiPadの1人1台体制を前倒しで導入。2学期からは3~5年生にタブレットが配布され、日々の授業や宿題での活用が進められています。
YouTube動画作成_3年音楽_リコーダーの運指

YouTube動画作成_3年音楽_リコーダーの運指

ZOOM双方向授業_5年ホームルーム

ZOOM双方向授業_5年ホームルーム

ZOOM双方向授業_6年理科

ZOOM双方向授業_6年理科

難関6校を目指すための基礎学力を育むカリキュラム

「灘・甲陽学院・六甲学院・神戸女学院・須磨学園・白陵」を目指せる基礎学力の育成を目標として、学習指導を行う同校。1年間の授業時間数は31.5~32.5時間と公立校より多くの授業時間を確保し、1年生から中学受験を見据えた教育を展開します。

主要教科は教科担任制を採用。特に中学受験で重要となる算数は、エキスパート教員と担任との2名で授業を行うTT(Team Teaching)体制での手厚い指導のもと、5年生で小学校の教育課程を修了。その後は受験対策指導を行います。休校中の授業動画配信でも、6年生の算数は40分間の問題演習動画を作成し配信。「理解できるまで繰り返し見られて良い」など、保護者からも評判が高かったそうです。

同じく6年生の1学期前半で小学校の教育課程を修了する理科では、実験や観察の時間がとても多いことが特徴として上げられます。その理由について、岩渕校長先生は「やっぱり自分でやってみないと分からないでしょ」と話します。

「書いてあることを読んで勉強するだけでは、面白くない。実験の結果を知っている子は、もちろんいます。『結果は、こうなんねん』と話す子に、『じゃ、やってみ』と言うと、実際はなかなかその通りにならない。すると、意地になってやりますよ。失敗が、どんな条件をそろえるとよいか、どこを詳しく見たらよいかなど、より勉強に向かわせるのではないでしょうか。だから、どんな実験でも全員が自分の手で行えるようにしています。これも少人数制の利点ですね」(岩渕校長先生)
3年_理科_タブレットを活用した学習

3年_理科_タブレットを活用した学習

5年_理科_実験_ものの溶け方

5年_理科_実験_ものの溶け方

日々の積み重ねで、確かな『書く力』を養う

中学受験のみならず、これからの時代を生き抜くために求められる『書く力』。その育みのために、同校では作文指導に力を入れています。

「1年生の『先生あのね』を通しての主語と述語の使い方から始まって、基本的な記述ルールや形容詞をどうやって使うかなど、一人ひとりの段階に応じた指導を丁寧に進めています」と岩渕校長先生。
国語科での作文はもちろん、他教科でも日々の感想、新聞やレポートの作成など、自分の思いを文章化して表現する機会が非常に多いそうです。年に1回、年度末には文集『太陽の子』を発行。この文集には幼稚園から小学6年生まで学園生全員が参加し、小学生は全員が1ページ約570字を書きます。1年生でもきちんと570字も書き上げられるのは、日々の学習の積み重ねによるもの。各種読書感想文コンクールで毎年のように入賞者を輩出しているという事実も、同校児童の書く力の高さを裏付けます。

ほかにも、漢字の先取り学習を行い、5年生の2学期で小学校配当漢字を終えます。漢検受検も正課のカリキュラム内で実施。6年生修了程度である5級全員合格を目指し、12月から漢検に向けた勉強をスタート。冬休みの宿題にも漢検対策問題が出され、年明けからは過去問や模擬テストを授業内で解くなどの手厚い指導が行われます。2019年度は、3年生で5級に挑戦し、見事満点賞に輝いた児童もいるほか、学校としても団体の部で特別賞を受賞。過去には在学中に2級を取った児童もいるそうです。
『太陽の子』

『太陽の子』

最新の受験状況を反映した有名進学塾『馬渕教室』とのコラボ授業

6年生からは、有名進学塾『馬渕教室』のエース級講師を招いて受験対策を行う『コラボ授業』もスタートします。最近は私立中高一貫校で予備校の講師を招いて学内予備校を設置する学校も増えていますが、小学校でこのような取り組みを行う学校はほとんどありません。ほぼ全員が中学受験するという環境だからこそ実現できる授業です。

算数4コマ、国語・理科それぞれ2コマを、週4日、正規の時間割内で実施。通常6月からスタートして、12月まで、延べ200時間の授業時間を設けています。最初は1クラスですが、学習の仕上がり状況を見て、秋以降は基礎と発展の2クラスに分けて進めます。どちらのクラスを選ぶかは児童自身で決めることができ、最難関校を目指している児童でも基礎クラスを選ぶこともあるそうです。

「基礎の基礎から復習できるという利点があるからでしょう。過去に甲陽学院に進学した子が卒業後に、『コラボ授業や学校の授業が自分の基礎固めや振り返りに役立った。学校できちんと基礎を押さることで取りこぼしがなくなったから、安心して難しいことにチャレンジできた』と合格後に話していました」(佐山教頭先生)

また、コラボ授業では、国語以外の教科でも増えている記述問題への対策も実施。実際に問題に取り組むほか、採点基準についての指導もあります。教員もそれを踏まえて、児童が取り組んだ過去問の採点に当たるのだとか。教員もコラボ授業を現在の受験動向を把握する情報源として活用し、より充実した受験指導に役立てています。
コラボ授業_算数

コラボ授業_算数

コラボ授業_算数

コラボ授業_算数

学校全体で受験を応援する

同校では6年生になるとほぼ宿題が無くなることも、大きな特徴です。
「小学校で習う内容をしっかり固めるため、5年生までは宿題を出します。しかし、6年生では学校のことは学校内で完結できるようにとの考えのもと、ほとんど宿題は出しません。児童が進学を希望する中学校は多岐に渡ります。それぞれの第一志望校への進学を後押しするために、画一的に宿題を出すのではなく、その子その子に応じた対応を行います」(佐山教頭先生)

6年生の2学期後半からは授業時間内にそれぞれの志望校の過去問に取り組む時間も与えられます。家庭でじっくりと過去問に取り組む時間を捻出しづらくなるこの時期に、過去問を学校で出来ることは、時間の面でも心の面でもたくさんのメリットをもたらしてくれます。これも、児童それぞれの受験を学校全体で応援する環境が整っているからこそ出来ることです。

また、私立中学との提携校推薦制度も同校の魅力のひとつ。啓明学院や滝川第二、甲南女子中学校など、多くの学校との提携を実施し、各学校若干名となりますが、校長推薦で進学することができます。
「バレエやピアノ、サッカーなどのレッスンに打ち込んでいるため、塾に行く時間は取れない。しかし、学校の勉強を頑張り、行事も楽しんで参加している子が、推薦を使って進学という場合もあります」と佐山教頭先生。2019年度は、卒業生22名のうち5名が提携校推薦制度を使って進学したそうです。

充実した放課後預かり体制

同校では、放課後の預かりにも力を入れています。
授業終了後、全学年で自由参加の補習を午後4時30分まで行うほか、専門講師を招いてのアフタースクール(別途参加費要)も開講。月火木・週3回4コマ実施するLepton英語教室のほか、茶道とスナッグゴルフ、サッカーの4種。どの講座も人気で、英語教室は卒業まで通う児童もいるそうです。

午後4時30分以降は、学内で担当教員が児童を見守る『放課後児童預かり』(別途参加費要)が午後6時まで、提携する学童『すま子供の園』では最長午後8時までのお預かりに対応しています。校内での預かり終了後に下校する際は、可能な限りJR・山陽須磨駅まで教員が送るようにしているとのこと。兵庫県で唯一の完全給食実施校という点も併せて、共働きの家庭でも安心して通学させることができる体制が整っています。
スナッグゴルフ教室

スナッグゴルフ教室

茶道教室

茶道教室

まとめ

決められた制服がなく、男子は制帽、女子は校章バッジを着用するのみの須磨浦小学校。本人の個性や特性を昔から大切にする校風のもとに育つ子ども達は皆、非常に個性豊かです。だからこそ、かえって誰もはみ出さず、学年を越えて仲が良いと両先生は話します。

学校全体がひとつの家族のような和やかな雰囲気の中、自分の進みたい道を目指して勉強や習い事に打ち込めるという魅力的な環境に、2020年度からはICTを活用した教育も加わりました。 2021年度は、手を動かし、実体験を重視する今まで通りの教育を大切にしつつ、ICT体制も整えていくとのこと。広がりを増す教育は、同校の環境をより魅力的なものへと変えていってくれるに違いありません。
16年(兄弟学年)_交流授業

16年(兄弟学年)_交流授業

取材協力

須磨浦小学校

〒654-0072 兵庫県神戸市須磨区千守町2-1-13   地図

TEL:078-731-0349

FAX:078-731-5178

URL:http://sumaura.ed.jp/

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