取材レポート

四天王寺小学校

こころを育て、人を育てる

「こころの育成」を中心に据え、探究型の学びや独自の英語教育、子どもたちによる主体的な学校行事、放課後アフタースクールなどを展開する四天王寺小学校。
その教育の特色について、2017年度より校長に就任された吉田晃先生にお話をうかがいました。

四天王寺小学校 校長 吉田 晃 先生 のお話
吉田 晃 校長先生

吉田 晃 校長先生

聖徳太子の教えを受け継ぐために

本校は、2017年度より校名を「四天王寺学園小学校」から「四天王寺小学校」に改め、新しい教育に向けた取り組みをスタートさせました。その背景にあるのは、時代の急速な変化です。グローバル化や情報化、技術革新が進み、AIの活用も始まっています。大きな社会変動のなかで、子どもたちに何よりも求められているのは、人間として、日本人としてこころ豊かに、志高く生きることではないでしょうか。本校が進める新しい教育の根本にあるものは、仏教精神にもとづく全人的な人間教育にほかなりません。

本校のルーツは、聖徳太子が西暦593年に創建された四天王寺の「敬田院(きょうでんいん)」にさかのぼります。敬田院は大乗仏教の教えによる人間修養の場として、いにしえより人々の「こころ」の拠りどころとしての役割を担って参りました。この理念を現代に受け継ぐために開設されたのが本校です。日々の学校生活、友だちとのかかわり、授業、行事、すべての中心に「利他と和」の精神による「こころ」の育成を据えています。

探究心を育む『たいしメソッド』

授業では「探究心」を育むことに力を入れ、『たいしメソッド』として探究型の学びに取り組んでいます。具体的なねらいは、「自ら課題を見つけ、自ら解決法を探し、学び続ける子ども」の育成です。そのために、「自ら学ぶ」「なかまと学ぶ」の両方に取り組みます。

「自ら学ぶ」ための取り組みの一つとして、1年生から「自主学習ノート」を持ち、家庭学習や授業の中で活用しています。1年生のある児童は、家でお姉さんからもらった磁石に興味を持ち、その働きについて自分で調べ、ノートにまとめました。担任は一人ひとりのノートを丁寧に見て、返事を書き、次の自主学習につながるアドバイスを行います。さらに、子どもが自主学習によって気づいたことや不思議に思ったことを授業に取り入れ、全員の学びの展(ひろ)がりに生かします。

友だちとの「和」により力を結集

例えば、国語の授業で「一人まなび」の時間を設ける実践があります。そこでは子どもたちはまず、教員が用意したワークシートのうち、自分のやりたいものに取り組みます。物語の登場人物を書き出すためのワークシート、ストーリーをまとめるためのワークシートなど、種類の異なるプリントを用意しているのがポイントです。これまでのような教員主導の一斉学習ではなく、子どもが自ら主体的に課題に向かうことを重視しているのです。

また、「なかまと学ぶ」ために、ペアまたはグループでの話し合いや調べ学習を進め、表現=プレゼンテーションの工夫に取り組みます。友だちの考えを聞く・自分の考えを話すなどの言語活動を通して解決法を探る過程を通じて言語能力そのもの鍛えることを大切にします。「一人まなび」を「なかまと学ぶ」につなげ、みんなで協力して物語の理解を深めていく。友だちとの「和」によって力を集結させながら探究心を養うことを、私たちは「展がり(ひろがり)ある学び」と呼び、それぞれの教員が授業を工夫しています。

「展がりある学び」のために役立てるのがICTツールです。必要な情報を収集したり、学んだことの成果を発表したり、学習成果の記録・保存、近い将来のe-ポートフォリオ化を見通しながらより有効なICT環境の整備に努めます。

こころを育て、グローバルな関係力を高める英語教育

英語教育も「こころ」の育ちと深くかかわっています。私たちは言葉で考え、言葉で想い、言葉で表現し、そして言葉でつながる。それが人間の証です。こころの豊かさとは、言葉の深さ、広さにほかなりません。グローバル時代に必須となっている英語にも、人々のこころや文化が込められている。それを学ぶことでこころをより豊かにしながら、考えや想いを英語で伝え合える人になってほしいと考えます。外国人教員もこの方針を理解し、こころの成長につながる指導を行っています。

本校英語教育の大きな特長として、1年生から外国人教員と日本人の英語教員によるオールイングリッシュの授業、朝の15分間のイングリッシュモジュール、「四天王寺小CLIL(クリル)」、そして海外校との国際交流の4つが挙げられます。

英語で体育・音楽・プログラミング学習

CLILとは、さまざまな教科の学習と英語の学習を組み合わせた新しい学習法です。四天王寺大学の英語教育研究者との連携で開発しつつある、「四天王寺小CLIL」では、本年度においては1年生の体育、2年生のプログラミング学習、1・2年生の音楽で実践的研究に取り組んでいます。いずれも、その教科の専門力をもつ外国人教員が日本人教員とペアを組み、英語で教えます。その教育効果は高く、内容理解と英語力向上の双方で効果を挙げつつあるのが「四天王寺小CLIL」の特色です。

さらに通常の英語の授業においてCLILや探究型学習を取り入れ、子どもが主体となって実践的に学びます。たとえば、「形」について学ぶときは、子どもたちが校内をまわっていろいろなモノの形をiPadで撮影し、英語で紹介する中でターゲットセンテンスが定着していきます。またあるときは、「動物をグループ分けしよう」というテーマにグループで取り組みました。「卵として生まれるものとそうでないもの」「4足歩行と2足歩行のもの」など自分たちで考え、英語で発表します。こうした取り組みに英語を重ねながら学びが進んでいきます。

6年間で英検3級~準2級レベルをめざす

授業の復習を中心に行うのが、朝に行う15分間のイングリッシュモジュールです。また、四天王寺大学で英語教育学を専攻する大学生もモジュールを担当し、子どもが英語に慣れ親しめるよう工夫しながら一緒に取り組んでいます。

6年間の系統的な英語カリキュラムにより、卒業時までにめざすのはCEFR(セファール・ヨーロッパ言語共通参照枠)のA1・A2下位レベルです。これは英検3級~準2級に相当します。言語能力を評価する国際指標となっているCEFRは、2020年から始まる大学新入試で英語習得レベルの認定にも活用されます。本校はCEFRを常に意識しながら児童の英語力の育ちを見取っていきます。

ハワイ短期研修がスタート

ハワイ短期研修は、本校の国際交流のコアとなるものです。4年生以上の児童を対象に、ハワイ・オアフ島の私立伝統校Punahou School(プナホウスクール)と2019年度より交流する予定です。すでに低学年では同校とのビデオプロジェクトなどの交流が始まっています。

オバマ元アメリカ大統領の出身校としても知られるPunahou Schoolは、世界のリーダーを輩出する名門校です。ハワイの伝統文化の教育も大切にする同校は、日本の伝統文化を大切にする本校と理念が一致し、まさに国際交流にふさわしい学校です。また、ハワイは自然学習や平和学習にふさわしい地でもあり、実り大きい研修になると確信しています。

日能研との連携で受験対策

本校では全学年で、国の定める標準時数を大きく上回る授業時間数を確保し、低学年からの基礎基本の習熟と主体的で深い学び、つまり、探究力の育成を統一的に図ることをめざします。

卒業後の多様な進路保障は、子どもの将来にとってたいへん重要です。個々の子どもたちの可能性に見合った進路選択のため、学校としてしっかりと支援します。当然ながら、四天王寺学園中学校・四天王寺中学校への特別推薦制度があります。

そのために高学年でスタートさせるのが、大手進学塾「日能研」との連携です。高度な教材や指導プログラムをもつ日能研との協働で独自のカリキュラムを作成し、日能研講師とチームティーチングで授業を行う予定です。

さらに志望校選びなどについても、日能研のもつ情報や膨大なデータの活用が可能です。また、受験に向けた苦手部分の分析や克服についても、日能研と連携して個別にきめ細かく支援します。

アフタースクールで多様に学ぶ

本校が運営するアフタースクールでは、多様な講座を展開しています。学習講座として英語入門・英語経験・英検トライ、スポーツ講座として剣道・卓球・クラシックバレエ・バドミントン・チアリーディング、文化・芸術講座として書道・茶道・囲碁・将棋・マナーを開講中です。それぞれ専門講師が本格的に教えます。

正課の終了後、アフタースクール開始の15時30分までの間は、本校教員が宿題や自主学習をサポート。アフタースクールの講座終了後は、19時まで延長預かりが可能です。

入学者増の背景にあるもの

校名を変更し「変わる!宣言」をうちたてて以降志願者が増えつつあり、2018年度の入学者数は前年より40%増となりました。これは、本校の理念や具体的な教育に共感をいただいていることの表れと受け止めています。

保護者の皆様は、グローバル化やAI化が急速に進む現代の社会を生きるわが子に英語力に加えて、こころの育ちや日本人としてのアイデンティティの確立が大事だと肌で感じ取っておられるのではないでしょうか。

現代人は仏教を遠いものに感じているかもしれません。しかし、実は私たちの日常の考え方や生活、心情に深く根付いているのです。本校はそうしたものを大切にしています。たとえば、12月に開催する「たいし子どもまつり」という全校の子どもたちによる取組みは、本校ならではの行事です。一昨年まで校内だけで行っていたのですが、広く外部にも呼びかけ、地域の方や幼稚園・保育園の園児たち、四天王寺大学の学生ボランティアなど、なんと700人が参加してくれました。この様に四天王寺小学校は地域にも開かれた子どもたちが主人公の学校としてその姿を大きくかえつつあります。

不変の理念を土台に新しい教育を

本校では、子どもには多様な可能性が宿っているととらえ、日々の教育を行っています。これも仏教の教えからくるものです。子どもにとってすべての体験が、可能性の芽生えやこころの成長の糧となる。友だちとのトラブルが起きても、それがこころの育成につながると前向きにとらえて指導します。

私たちがもう一つ大切にするのは、子どもの世界です。子どもは自分たちの世界を、自分たちでつくっていく。子ども自身で物事を解決する力も持っているのです。教員は子どもを信じ、子どもの声に耳を傾け、いつもそばに寄り添います。そして、子ども同士、子どもと教員、みんなのこころをつないでいきます。

仏教を信仰し、「和を以て貴しとなす」と説いた聖徳太子は、遣隋使を派遣するグローバルな視野を備えたリーダーでもありました。国は今まさにグローバル人材の育成を唱導し、、多様な人々と共生するこころや思いやり、課題解決力、生涯学び続ける意欲、そして日本人としてのアイデンティティの育成を求めております。この様な動向の中で本校の教育理念の価値はますます高まるものと確信しております。この揺るぎない理念のもと、これからも新時代に必要な教育に邁進いたします。

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