取材レポート

追手門学院小学校

メディアラボ始動により底上げされた教員のICTスキル。
充実した授業動画配信で、コロナ休校下でも、通常の学習進度を維持。

西日本で最も長い歴史を持つ私立小学校である追手門学院小学校。創立130周年記念事業として2019年に誕生したメディアラボは、最先端の技術やICT機器が取り入れられた次世代型教育の拠点です。メディアラボの始動から1年、そこからスタートした新しい学びと新型コロナウィルス対策による臨時休校中の取り組みについて、井上恵二校長先生にお話をうかがいしました。

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生 のお話
井上恵二 校長先生

井上恵二 校長先生

追手門学院小学校 校長 井上恵二先生 のお話

ICT機器の利点を生かしつつ、人を育てる

メディアラボの誕生と共に導入されたのが、マイクロソフト社のタブレット型パソコン・Surface。1人1台配布されたSurfaceは、主に調べ学習をパワーポイント上でまとめ、発表することに使われます。

「パワーポイントを使い、電子黒板を通して、自分の意見をみんなの前で発表。さらに選ばれた子どもは、大きな記念ホールで300~400人を前にして発表することもあります。子ども達は新しい表現方法を手に入れ、それが自然にできるようになりました。それは明治から始まる当校の歴史の中でも画期的なことです」と井上校長先生は話されます。

新学習指導要領で求められる協働型学習でもSurfaceを活用。意見抽出ソフトであるスカイメニューを使い、みんなの意見を共有→議論→また発表するというサイクルで、スムーズに協働型学習を進められるようになりました。

この協働型学習の際に活躍するのが、メディアラボ2階に設けられたアクティブスペースです。可動式のテーブルとイスが備えられたアクティブスペースは、様々なグループ学習に対応可能。図書室とは大きな階段で一続きになっているので、子ども達はSurfaceを使ってインターネット上から情報収集したり、図書室で図鑑を調べたりと、豊富な情報資源に、まるで魚が回遊するかのように簡単にアクセスすることができます。
調べ学習のまとめとなるプレゼンテーションでは、大きな階段が活躍。2クラス分の児童が並んで座れる席となり、たくさんの人の前で発表をするという経験を子ども達は日々積むことが可能です。

また、特別教室も含めて全学級に電子黒板を導入。教室の設えもロッカーを可動式に変更し、壁際に配置することで、活動範囲が一般的な学校の約1.5倍に。机を寄せるという学級レベルのグループ学習もしやすくなりました。

「ひとつの道具としてSurfaceが手元にあり、それを有効活用できる電子黒板が導入され、授業自体が変わったと感じます」と話される井上校長先生が、新しい学びを提供していく中で大切にしているのが「将来につながっていく人格をきちんと育成すること」です。

ICT機器を使うことで、自分で声を発しなくても意見をくみ取ってもらえる場面も増えます。今まで手を上げられなかった子の意見を拾うという意味では非常に有効な使い方です。同時に「子ども達が手を上げて、自分の意見を発表するということも小学校での大切な授業態度なので、指導していかなくてはなりません。」と井上校長先生はおっしゃいます。そして、「小学校は知識技能の習得だけでなく、人を育てるということがとても大事。社会で通用する人を育成していくための教育を大切にしていく」と続けられました。

ひと月で600本以上の授業動画を配信

「休校中も学習をストップさせない」という考え方の元、3つの取り組みが行われています。
まず、最初に行った取り組みは学習材を宅急便で送って、レターパックで返信してもらうこと。次に、教員が作った教材のGoogleドライブへのアップロードも始まりました。教材には、保健便りや学年からのお知らせなど心のケアを担うお便りに加え、国算理社の4教科に加え、音楽や生活、図工など、すべての教科の学習動画があります。

動画は見るだけでなく、「読む」「書く」「体を動かす」を意識し、作成。体育なら教員と一緒に運動する、音楽は複数の教員によるZoomを通して行ったピアノやバイオリンのリモート合奏を配信し、それを伴奏に歌を歌うなど、子ども達が楽しんで取り組める工夫が凝らされています。

5月12日現在、アップロードされた動画数は全学年を合せて600本超。若手からベテランまで多くの教員がパワーポイントなどを使いながら、約1ヶ月でこれだけの数の動画をあげています。この教員達の素早い対応は、メディアラボ誕生以降、ICTを積極的に取り入れ、たくさんの研修を経て、教員全体のICTスキルが底上げされたことのひとつの成果ではないか、と井上校長先生はお話し下さいました。

その結果、遠隔に適した単元を先に行う臨時のカリキュラムではあるものの、教科学習については、学校で普通に授業を行っている場合と比べて、そう違わない進度だそう。まさに、「学習をストップさせない」という言葉通りの状況です。

4月13日から始めたのは、Zoomによるホームルームです。お互いに自己紹介する所から始めて、今はみんなで一緒に歌ったり、手遊びをしたり。じゃんけん大会やクイズ大会の日もあります。「子ども達が楽しめること」を行うホームルームのおかげで、子ども達が明るくなったという声が保護者からも届いているそうです。

「家族や身内以外としゃべる機会のなかった子ども達が、モニターを通してではありますが、友達や先生の表情を見ながら会話できることで、関係がリアルになったと感じています。オンラインでの自己紹介から1ヶ月間やりとりを積み重ねていって、先週の分散登校で実際に顔を合せ、段階を踏みながら、人間関係を着実に構築していければ思っています」と井上校長先生は話されます。

〇家庭学習用動画教材(YouTube)
https://youtu.be/JeMIDyvK9xg

新しい生活様式を意識させる、分散登校でのきめ細やかな指導

5月15日からは1クラスを3分割にした分散登校も始まりました。通常の小学校より広いスペースを持つ追手門小学校の教室であれば、2分割でも十分、児童間の距離を2メートル以上取ることができます。しかし、あえて3分割という少人数で実施したことには2つの理由があります。

まず1つ目は、子ども達の表情や発言をしっかり観察するため。この休校期間中に、教員はスクールカウンセラーから様々な研修を受講。その中には、登校再開し、顔を合せた時にどのように対応するかという研修もありました。適切な対応をするには子ども達の表情や顔色、発言を丁寧に確認することが大切だと考え、登校人数を減らすことにしたそうです。

また、再開後の3密を避けるための指導を、最初の登校日にしっかりと行いたいという理由もあります。たくさんの子ども達の後を常時付いて回り指導することは不可能で、また可能であったとしても、それは子ども達の世界を邪魔することにも繋がります。そこで、自分たちで考えて「離れよう」「やめておこう」と子ども達が言えるように、この登校日に指導が行われています。

並ぶ場所に間隔を指示する印を入れたり、教卓前にビニールシートを張ったりするなど、ハード面での対策も施され、6月からの学校再開への準備は着実に進んでいます。

〇本校における緊急事態宣言中の児童及び家庭へのサポート体制(YouTube)
https://www.youtube.com/watch?v=4TmYYka2N78&feature=youtu.be

まとめ

「非常勤講師に至るまでみんなが頑張って、色んなコンテンツを作って発信してくれています。これだけ全教科でフォローが出来ているのは、教員がワンチームになって頑張っていることの表れ。その様子が校長としてとても嬉しいですし、改めて“常に研鑽を積んでいく”という追手門の教員の中に流れる学びの伝統を再認識しました」と、最後に井上校長先生はお話し下さいました。

5月15日の金曜日には1年生の分散登校が行われました。2020年度は入学式が開催出来ず、1年生はこれが初めての登校。そこで6年間の第一歩を祝うべく、教職員全員で子ども達を出迎えたそうです。教職員の拍手に包まれて教室まで送られた1年生は、とても嬉しかったことでしょう。
たくさんの愛情の元、日々アップデートされる最新の教育を受けられる。伝統が息づく追手門小学校ならではの環境を感じた取材でした。

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