取材レポート

小林聖心女子学院小学校

ICT×12年一貫教育で導く時代に求められる思考力

小林聖心女子学院は小学校から高校までの12年間一貫教育を、旧来の「6-3-3制」から「4-4-4制」へと転換し、女子の身体的・心理的成長により適した教育課程を実践しています。ゆったりとした12年という時間をかけて、それぞれの個性を見守り育むことができるのは小中高一貫教育のメリット。キリスト教カトリックによる建学の精神を基本に、自尊感情を大切にし、一人ひとりの個性をいかして社会に貢献できる賢明な女性の育成を目指しています。

「4-4-4制」の第2ステージにあたる小学校高学年では、以前より、中学校との連携授業が行われてきました。そこへICTを導入し、2017年度よりスタートしたのが、算数・数学科の図形(幾何)ソフトCabriによるオリジナルカリキュラムです。子どもたちの取り組みが深まるなかで、時代に求められる思考力が高められる確かな手ごたえを感じています。

国内の研究発表会でも注目されているこのカリキュラムについて、また同校が目指す未来にベクトルを向けた学力について、算数科・教務主任の大川尚輝先生、数学科・入試広報室長の宇津野仁先生にお話を伺いました。

算数科・教務主任 大川尚輝先生、数学科・入試広報室長 宇津野仁先生のお話
算数科・教務主任 大川尚輝先生

算数科・教務主任 大川尚輝先生

数学科・入試広報室長 宇津野仁先生

数学科・入試広報室長 宇津野仁先生

算数科・教務主任 大川尚輝先生、数学科・入試広報室長 宇津野仁先生のお話

図形(幾何)ソフトCabriで広がる図形の世界

図形(幾何)ソフトCabri は、コンピューターでの操作性に優れ、数学的なアプローチを自然と身につけられるソフトです。小学校5年生では、ソフトを使ったお絵描きからスタートして操作を覚え、直線と線分の違いなど、数学的な用語を交えた学習を行います。6年生では図形を使った課題解決に取り組み、数学的要素を使って抽象的な思考を深めていきます。Cabriは数学的な思考を深めるだけでなく、身近なテーマを図形で表現したり、高度な課題を図形で解決したりでき、中学教育以上で用いられるソフトですが、小学生のやわらかな発想力や表現力とも非常に相性がよいそうです。

例えば6年生で取り組む「クローゼットの扉の動き方」というテーマでは、子どもたちはまず、自分の腕を使って扉の動きを再現してイメージを膨らませ、その動きをCabriでの図形化に試行錯誤しながら取り組みます。図形化の次は、その手順を説明できるように頭を整理して言葉で表現し、友達に自分の考えを伝えます。このように共有化することで、個人の気づきがクラス全体へと広がります。また身近な生活に存在する動きを図形でとらえようとすることで、今まで見えていなかった直線や円の存在を感じ、算数的な言語で考える力が育成されていきます。

「教える」から「導く」スタイルで思考力を深める

このカリキュラムでは、自分の考えを頭の中で整理し、Cabriでの作図手順を自分の言葉で表現することや、分かったこと、気づいたことを言葉にして友達と共有することを大切にしています。そして自分の考えと友達の考えを比べたり、よりよい方法を考えたりして、さらに自分の考えを深めて整理することで、思考力が深まっていくと大川先生は話します。これは論理的な思考の育成であり、2020年度に小学校新学習指導要領でスタートしたプログラミング教育で求められる学力そのものと言えるでしょう。

「こういった新しい学力を育むには、子どもたちが学びたいと感じる『学びの旬』を作り出せるよう仕掛けることがポイントです」と宇津野先生は補足します。自分で何かを発見できた時、仲間や友達と答えを導く方法を共有できた時、自分の考えをもてた時などに生まれる「!!」の瞬間を教師が作り出し続けることが、これからの学びや授業のスタイルだと確信があるとのこと。そのため、このカリキュラムでは「とにかく図形の世界を楽しんでほしい」という思いで、教えすぎないことを心がけ、子どもの気づきや発見を中心に授業を導かれているとのことでした。

もう1点、興味深く感じたのは「算数が得意な子がこのカリキュラムも得意なわけではない」こと。算数に苦手意識がある子どもも、Cabriのコンピュータ操作の中で様々な気づきがあり、むしろ苦手な子どもほど数学の基本にふれて視野が広がり、数学的思考へと自然に無理なく導かれています。算数が得意な子どももそうでない子どもも、誰もが主役になれる学習環境の中で、教材を通じて自分と対話し、自分の考えをもって友達と対話するーそのなかで生まれる各々の気づきが同時多発的に発生し、クラス全体が活発に学びを深めます。「こうやったらできた!」と次々に反応が拡がる様子が特徴的で、個々の気づきが全体へ広がることで自然と答えへ導かれ、クラス全体のチーム力も高まっていくそうです。

このような授業スタイルのためには教師の力量や熱量が問われます。仕掛けのための準備や、子どもの気づきを拾いあげる丁寧さなど、思考力を引き上げるために教師も本気です。そこに未来に向けた学力が育っている確かな手ごたえがあると宇津野先生は話してくださいました。

数学教育シンポジウムで成果を発信

この取り組みは、2019年、東京理科大学で行われたICTによる数学教育のシンポジウム「Teachers Teaching with Technology(T^3)」で、大川先生によって発表されました。小学校でCabriを取り入れている点で話題になった上、12年間を通して算数・数学が学べる環境が他校にはないため、それも独自性として際立ったとのこと。改めて12年間を通して、途切れることなく教育を行えることを強みにしたカリキュラム開発へのモチベーションになったそうです。これからも未来志向の教育を展開していきたいと語ってくださいました。

●本校教員によるICT教育の発表
http://www.t3japan.gr.jp/2019_prog2.htm
※8月25日(日) C-1『小学校から広げるCabriを使った図形の世界』

まとめ

お話の最後に、宇津野先生は「これからは自国の成長だけではなく、世界が全体として豊かに幸せになることが求められる時代。知識の量や正解に早くたどり着くことを目的とする教育から、答えのない問題を解決できる能力を育む教育への転換が求められています。Educate(教育)の語源は『引き出す』こと。これからの時代に活躍できる人材を育てるためには、教師には子どもたちの能力を引き出す力が必要です。人間はもともと学びたい、知りたい欲がある生物です。ICTのツールを上手に使えば、今までにない教育を想像力豊かに作り上げることができると感じています。」とまとめられました。

時代に求められる思考力を育むためには、じっくり成長できる環境も必要でしょう。その点、ぶれない価値観が貫かれ、安定した環境の一貫教育で過ごすことは、学びや成長の面で効果的にと考えられます。落ち着いた環境で、未来に向けたカリキュラムを継続的に受けられることは、思考力の教育に最適ではないでしょうか。

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