取材レポート

東京女学館小学校

新たな校長を迎え、授業の大切さを再認識

東京女学館小学校では、「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」を教育目標として掲げ、これを具現化するために「すずかけ」「つばさ」「国際理解」という3つの特色ある教育活動を展開しています。これらの教育活動に加えて、教育目標の具現化に不可欠となるのが「授業」です。2022年4月に校長として就任した盛永裕一先生に、日頃の授業の充実への思いなどを聞きました。

東京女学館小学校 校長 盛永裕一先生のお話
校長 盛永裕一先生

校長 盛永裕一先生

東京女学館小学校 校長 盛永裕一先生のお話

特色ある教育活動を支えているのは日頃の「授業」

校長として就任してから3ヶ月ほど経ちましたが、各教員の授業を1回は見せてもらい、授業論を交わしています。私は学習の基礎・基本を重視しており、そのためには日頃の授業の充実が大事だと考えているので、教職員にもそれを伝えているところです。「すずかけ」「つばさ」「国際理解」という3つの特色ある教育活動は、本校の根幹をなすものなので引き続き充実を図っていきます。しかし、どれだけ特色ある教育活動を行っていても、日頃の授業をしっかり行っていかないと学習の基礎・基本は定着しません。そのためには、授業時間を確保して、授業を充実させる必要があります。将来、社会へ羽ばたいていくことを見据えると、今しっかりと学習の基礎・基本を身に付けてあげなければなりません。そのベースがあってこその、特色ある教育活動なのです。様々な可能性を持った子が多いので、その素地を養うためには算数や国語に限らず、どの教科も同じように大切にしたいと考えています。

答えがある場面で「問題解決」の練習

多くの教員と授業論を交わす中で、主体的、対話的で深い学びを実現できる授業を実践していかなければならないと、改めて感じました。まず、授業は問題解決型で進めることが大切です。大人は会社でも、家庭でも、子育てでも、毎日のように問題解決をする場面に立ち向かっています。例えば、企画の提案やコロナ対応など様々ですが、その多くは正解がわからないものなのです。ですから、子どもたちには問題解決に立ち向かう力を義務教育で育ててあげなければならないと考えています。小学校では、答えがある場面で練習できます。算数でも国語でも、答えがあるから安心して問題解決にあたれるのです。教員たちには、積極的に問題解決型の授業をしていこうと伝えています。

例えば算数の授業で台形の面積を学ぶ際に、ただ公式を教えて暗記させるのではなく、平行四辺形やひし形と同じように、「台形にも面積の公式があるんじゃないか。」と問題意識をもたせ、子どもたちに自由に考えさせて、学級の中で公式を作っていきます。もちろん公式は既に存在しますが、あたかも自分たちが発見したかのように問題解決させてあげるのです。そのような授業を実践していかないと、言われたことを暗記して、先生の顔色を見て発言して、親のゴーサインを待っている子になってしまいます。私は算数教育が専門ですが、国語でも、理科でも社会でも、体育でも、どんな授業でも問題解決型の授業は実践できると思います。体育でバスケットボールのゲームをする時は、チームを強くするためにはどうするか、子どもたちに考えさせて実践させ、成功体験に導くのです。教員は、そのような学びをしっかりとサポートしていきます。

授業の中でも「相互啓発」

問題解決型の授業と合わせて、お互いに高め合い、認め合う相互啓発も広めていきたいと考えています。休み時間や掃除の時間などにも相互啓発の場はありますが、授業という守られた場で実現していきたいのです。例えば、「体育は、○○さんにきけばいい」「Aさんの考えいいね」「Bさんこう考えていて、Cさんはこう考えているから、2人の考えを合わせるとDという考えが生まれる」というように、子どもたちの人間関係も高まっていきます。問題解決型の授業と相互啓発により、学級全体を高めていくことができるのです。この営みが集団で学習している価値なのです。オンライン授業が可能になったことで、教育がそのような形に流れてしまうことが心配でもあります。みんなで意見を出し合って、1つの結論を導き出す営みこそが学校です。子どもたちをしっかりと観察し、授業を大切にすることを、これまで以上に浸透させることが私の使命だと感じています。

教員の専門性を高めて学びを転移

英語の授業を1年生からやっているのは、有効だと思います。5、6年生は英語のクラスを希望制で3つに分けています。保護者と本人からアンケートを取り、「ゆっくりじっくり」学びたいか、「早くたくさん」学びたいか選ぶことができるのです。高学年になると専科の教員も必要になりますが、何年生から専科がいいかは議論していく必要があると思います。1人の教員がいろいろな教科を見られると、算数が苦手な子でも体育が得意だとわかったりして、相互啓発につながる気づきがあります。一方で、教員には専門性を持つことの大切さや、教科の学びは転移するという話もしています。1教科の専門性に長けていると、それが他にも生きてきます。例えば、体育専門の人は、算数を教えるのが苦手かというとそんなことはありません。体育を極めた人は、問題解決型のよい授業ができたりします。

プログラミング的思考を使うと、ロボットが動いたり、明かりが点くなどの現象として見られるので、子どもたちは熱中しています。しかし実は、プログラミング的思考はわり算やかけ算の筆算でも使っているのです。わり算の筆算は、「たてる」「かける」「ひく」「おろす」の順に計算しますが、コンピュータでも同じように、様々な処理を順序立てて進めていきます。商を小さく見積もり、それがだめだったら1つ大きくするなど、ずっと算数の世界でやってきたことなのです。そういったことにも触れながら、教員間で教材研究も進めていきたいと考えています。

ICTの有効活用と学校の原点回帰

何か新しいことを導入すると、少なからず失われるものがあります。よい面ばかりでなく、失われる部分にも目を向けることが大切です。例えばICTの活用は、緊急事態宣言下で登校できないときにも、オンライン授業を行うことにより、学びを止めずにすみました。しかし、ICTの活用に偏りすぎると、学校で学習する意味が失われる懸念があります。効率ばかり求めるのも、よいことばかりではありません。オンライン授業になったからこそ、学校へ行きたい、対面の授業がしたいという生徒や学生も増えました。ICTの活用が定着してきた今こそ、学校は原点回帰も必要ではないかと考えています。

教員たちの授業を見ると、iPadでロイロノートを活用している場面が多いです。ロイロノートでは、児童が考えたことを一斉に教員へ送って、その中から教員が取捨選択してみんなに問いかけるという使い方があります。しかし40人分の意見を集めて、それを瞬時にチェックして選ぶことには無理があります。ですから、授業の最後に集めて、放課後に一人ひとりの意見をじっくり見てから選び、次の授業で問いかけるようにするのも1つの方法です。図工などで作品をiPadで撮影しておくことは、友達の作品を見たりするのにもいいと思います。途中の状態を撮影しておけば、画像として制作過程を残せます。体育では、跳び箱を跳ぶ瞬間を動画で撮影して、姿勢や手をつく位置を確認することに使うのもよいでしょう。この2年で、ICT活用のスキルは一気に伸びました。今はよりよい形で利用するための、円熟期に入ったと考えています。問題解決に向けて、相互啓発できる環境を作りながら、より効果的に活用していきます。

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