取材レポート

東京女学館小学校

「ファミリー力」で作り上げた女学館らしいオンライン授業

新型コロナウイルスの影響で、全国の学校が一斉休校となりました。東京女学館小学校では、7月13日から通常登校を再開。休校中にはどのようなことを大切にして、どのようなことを行ってきたか、田中均校長先生にお話を聞きました。

東京女学館小学校 校長 田中均先生のお話

東京女学館小学校 校長 田中均先生のお話

コロナ禍での取り組みは学校を見極める「試金石」

新型コロナウイルスの影響で、私たちの生活は大きく変わりました。今、私たちに求められていることは、フェニックス(不死鳥)のように「蘇る」ことではないかと考えます。フェニックスは、炎に飛び込んで自分の身を燃やし、灰の中から新しい命を生み出すという伝説の鳥です。新型コロナウイルスによって、偏見や差別、分断など、世界の国々でこれまで見えなかった膿のようなものが様々な形で表に出てきました。それらを一度すべて燃やし尽くして、新たに生まれ変わった状態が「ポストコロナ」だと思うのです。それは、学校教育についても例外ではありません。休校中には、どの学校でもオンライン授業や校内の感染対策などを行ったと思います。しかしそれを緊急事態への対応ととらえて一過性のものとしてはなりません。危機を好機ととらえるたくましさこそ学校教育の生命であり、「蘇り」の原動力です。学校が「何を行ったか」ではなく、子どもたちの学習や生活を飛躍させ、保護者の皆様方との協力関係を構築する道筋を示すというコロナ禍での取り組みようが、学校を見極める「試金石」になると考えています。

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休校中に大切にしてきた3つのこと

休校中に本校が大切にしてきたことは、「伝え続ける」「手作り感を守りぬく」「双方向性」の3つです。まずは、とにかく伝え続けること。毎週、緊急e-mailとホームページを使って、「現状をどのように考えて何をやるのか」、状況が変われば「それに対してどう考えて次に何をするのか」ということを私自身が保護者の皆さんへ発信し続けました。学校と子どもたちや保護者の方たちとの距離が物理的に開いてしまうからこそ、「つながっている」と感じていただけるように、想いを発信し続けることが一番大切だと考えたのです。また、学校教育から「手作り感」や「温かみ」をなくしたら、人を育てる場所とはいえなくなると思います。ですからオンライン授業も、「手作り感」と「双方向性」を大切にして行いました。オンライン授業を行うためには、保護者の協力が不可欠です。Zoomで保護者会を開くなどして本校の想いをご理解いただき、ご協力いただくことができました。

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オンライン授業は二人体制で実施

休校中、最初に行ったのは、各家庭のWi-Fi環境や使える端末の調査です。その結果をふまえて、Zoomを使ったオンライン授業がよいと判断しました。オンライン授業を行う際に大切にしていたことは、「手作り感を守り抜く」ことです。通信講座用のアプリなどを活用するという選択肢もありましたが、本校ではすべて教員が自分たちで授業を行いました。この間、徐々に進んでいた校内のインターネット環境を一気に拡充・整備しました。普段と変わらない授業をオンラインでできるように、そしてなによりも家庭での環境の中でも子どもたちが学び続けることができるように、環境づくりや授業内容づくりに教員たちが文字通り一丸となって一生懸命に努力したのです。自分たちでアイデアを出し合い、子どもたちと一緒に楽しめるように、「Zoomでランチ」やホームルームなども自主的にやり始めました。

授業を行う教員とは別に、オンライン授業をサポートする教員をつけて、すべての授業を二人体制で行いました。家庭の接続状況よっては途中で切れてしまうこともあったので、オンラインでのトラブルをサポートする教員が必要だったのです。二人体制なら、授業を中断することなくサポートができます。また、授業を行っている教員は、モニターに映る児童すべてにはなかなか目が行き届きません。手を挙げている児童を見逃してしまうことなどがないように、教員をもう一人つける必要があったのです。倍の教員が必要になりますが、「双方向性」を大切にし、「女学館らしい」授業を行うために非常勤の教員も総動員して二人体制を実現させました。その甲斐もあり、授業をスムーズに進めることができ、子どもたちの反応もよかったです。

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児童・保護者・教員の連携による「ファミリー力」

1年生などの低学年は、大人が横についていなければオンライン授業を受けることができません。また、在宅勤務となっていた家庭では、仕事で端末や回線を使う時間帯と授業が重なってしまうこともあったと思います。そのような中でも授業を優先して、様々なご協力をいただきました。1年生は特に、オンライン授業への不安などもあったと思います。「〇〇さん」と呼びかけることから始めて、学級会のようなことを行いながら少しずつ慣らしていきましたが、保護者の皆さんが付き添っていただけたことで、安心して授業を受けることができたことでしょう。今回のことで、教員・児童・保護者の連携による「女学館のファミリー力」の強さを改めて実感しました。これは、本校が持つ伝統的な力だと思います。子どもたちはオンラインでも全員制服で授業を受け、休校中も「女学館」に通っているという気持ちを忘れないでいてくれました。子どもたちの様子をモニターで見ていましたが、みんなとてもいい表情をしていました。

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休校中に見えてきた「蘇る」ための力

休校中に行ってきたことは、学校再開と同時にすべてが終わったわけではありません。2学期からは、全学年で全員にiPadを導入します。校内のWi-Fi環境も強化しました。1人1台iPadを持つことにより、今までは考えなかった展開も可能となります。例えば、オンラインでの国際交流もできるようになるでしょう。グループ学習も、今まで以上に発展させることができます。それらを実現させるためには、活用していくアプリなども選定していかなければなりません。休校中に、本校の教員たちにもそれらを実現させる力があることがわかりました。本校が「蘇る」ための力を見出だすことができたのです。これまでICTを活用していなかった教員も含めて、全員Zoomで授業を行いましたし、全員がZoomのホストになれるレベルになりました。教員同士も、お互いの授業を見ることで刺激し合っています。私自身も教員たちの授業を見ることができて、様々な発見がありました。特に若い教員の力はすごいですし、休校をきっかけにさらに大きく成長しています。今まで見えなかった力が表にでてきたことは、本校にとって大きな財産になりました。

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「開かれた学び」で「つながる力」をもったリーダーの育成

今年に入ってからは、新型コロナウイルスだけでなく自然災害などもあり、様々な面で政治的・経済的の問題や人間社会のありよう、自然との共存という課題などが露呈しました。これからの学校教育に必要なことは、大言壮語がまかり通るのではなく、現実にしっかり根差しながらすべての人たちが平和で幸せな生活をすることに貢献することではないでしょうか。そこに女性の視線、発想、行動特性が生かされてくるのだと思います。本校で行っている「すずかけ」の授業では、身の回りにある日本文化を学びます。例えば、お箸職人を本校に招き、子どもたちが自分でお箸を作り、それを使ってお箸の使い方やテーブルマナーを学びながら食事をするのです。日常にある文化を受け止める感性が「生活感」として欠かせないものですし、学校教育の場でも必要だと思います。そして、日本が「蘇る」ためには、政治や経済などの様々な世界で女性の発想が必要です。結婚や出産などの転機を経験するたびに、女性はいろいろな発想で乗り越えます。男性よりも生活に寄り添った目線で考えることができ、カラフルで面白い発想ができます。しかし残念ながら、日本では女性が活躍できる場が世界の中でもまだまだ多い方ではありません。現実の社会や自然に対する慈愛に満ちた豊かな感性が、状況に応じて柔軟で芯の通った行動力とあいまって、日本や世界の未来を築く力となります。人や社会に「開かれた学び」を創造し、ともに学び共に暮らす「つながる力」を培う教育を進めていきたいと思います。

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取材協力

東京女学館小学校

〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-7-16   地図

TEL:03-3400-0987

FAX:03-3400-1018

URL:https://tjk.jp/p/

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