取材レポート

西武学園文理小学校

西武学園文理小学校が「ロボット教室」を初開催

西武学園文理小学校では、2018年1月に初の「文理小学校 ロボット教室」を開催し、5・6年生がプログラミング学習にチャレンジしました。全国の小学校でもまだ例の少ない最先端のプログラミング教育をスタートさせた西武学園文理小学校。そのねらいを学校にうかがうとともに、「ロボット教室」を見学しました。

■西武学園文理小学校 主幹 永嶋 稔久先生のお話


■「文理小学校 ロボット教室」を見学しました

近い未来を見越してプログラミング教育スタート

今日、コンピュータが私たちの社会生活に欠くことのできないものとなっています。ロボットやAI(人口知能)の実用化も急速に進み、近い将来人間の仕事の多くをこれらが担うようになると言われています。さらに、いまは存在しないような新しい技術を使った仕事が増えていくことも考えられます。

こうしたなか、現在世界的に「STEM教育*」の必要性が叫ばれ、その主要なものとして、プログラミング教育が各国の学校に広まっています。日本でも同様の動きが出ていますが、まだこれからです。国は2020年より小学校でのプログラミング教育の必修化を定めたばかりです。本校では今年2018年より、プログラミング教育の取り組みをスタートさせることにしました。

*STEM教育(ステム教育) Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Mathematics(数学)の総称で、これらの分野を重視する教育を「STEM教育」と称してアメリカから広まった。

文理高校・理数科と連携

プログラミング教育はこれまでにない新しい教育なので、どの学校も授業経験がありません。その点、本校は小・中・高12年一貫教育のメリットを大いに生かすことができます。西武学園文理高校の理数科では、すでにプログラミング教育を行っていて、生徒たちはネイティブ教員の指導のもと、「英語プログラミング教育」を受けています。2016年には海外研修として、アメリカ・NASAと、ボストンでのロボット・プログラミング講座に参加しました。

そこで、今回の特別授業「ロボット教室」では、小学校と高校が連携し、理数科1年生の生徒たちが先生役となって小学生にプログラミングを教えます。高校生から楽しく教わることで、子どもたちは興味・関心を持ちやすくなります。また、頼もしい先輩の姿に自分の将来の姿を重ねることもできるでしょう。高校生にとっても、自分がこれまで得た知識・技能をアウトプットする機会となります。教えること・伝えることの難しさを実感する貴重な学びの場ともなるでしょう。

本格的なプログラミング教育の橋渡しに

「ロボット教室」では、高校との連携に加え、ソニー・グローバルエデュケーションと、ベネッセコーポレーションの協力も得ています。ソニーが開発した子ども向けのロボット・プログラミング学習キット「KOOV」(クーブ)を教材に使用します。

本校初の「ロボット教室」のねらいは、何よりも子どもたちのプログラミングへの興味・関心を引き出すこと。また、試行錯誤しながらロボットをつくり、動かすという学習を通して、問題解決力や創造力、表現力なども養いたいと思います。今回は初めての取り組みのため、5・6年生の希望者を対象としたところ、50名を超える子どもたちの手が挙がり、そこから抽選で32名に絞りました。学校として、ぜひこの「ロボット教室」を本格的なプログラミング教育への橋渡しにしたいと考えます。

高校生が中心に授業づくり

「これからロボット・プログラミング教室を始めます。最初に、各班で高校生は小学生に自己紹介をしてください。1人1分でお願いします」――高校生男女の歯切れのよい司会で授業がスタートしました。子どもたちは4人ごとの班に分かれ、それぞれ先生役の高校生が2~3人つきます。

授業の進め方については、高校生が中心となって考え、周到にリハーサルも行ったそうです。自己紹介のあとは、班で簡単なゲームをしてさらにコミュニケーションをうながすなど楽しい演出が続き、場がほぐれたところで、「それでは、プログラミングの学習に入ります!」

まず、班ごとに高校生がiPadを用いてプログラミングの手順を説明し、モーターなどロボット制御のために必要な装置も紹介したうえで、見本の動物ロボットを作動させます。「このロボットに手をかざすと、音を発します。こっちのロボットに手をかざすと、光を発します。こういう動物ロボットをみんなにプログラミングしてもらいます」子どもたちは身を乗り出すようにしてロボットの動きに見入っていました。

自学自習できるKOOV

高校生の説明を聞いたあと、ロボット・プログラミング学習キットKOOVを使ってさっそく活動開始です。 KOOVは、学校や家庭で子どもが楽しくプログラミングを体験できる学習キットです。ブロックと電子パーツでロボットの形を組み立て、そこにアプリからプログラムを転送し、ロボットを動かします。

授業見学に訪れたソニーのKOOV開発担当者に、その特長について話を聞きくと「プログラミング学習は、普通は専門の先生が教えないとできません。それに対して、KOOVはe-ラーニングによって小学生でも充分自分で学べるよう工夫しています。プログラム言語は日本語で、メニューに<○びょうまつ><○かいくりかえす>などさまざまな項目が示されているので、それを指でタッチしてドラッグ&ドロップし、プログラムを入力するといった作業が基本となります。そして、実際にロボットを動かしてみて、プログラムを変えたりするなど、幅広く試行錯誤できる学習キットです」

KOOVのブロックのデザインにもこだわっているそうです。透明感のあるパステルカラーのブロックで見た目にも美しいロボットを作ることができ、“ロボット”に距離感を抱く女の子にもアピールします。デジタル教材の「ロボットレシピ」を見ながら、噛みつくワニや音を奏でるギター、走る機関車など、さらに自由制作もできます。

“文理サファリパーク”づくりにチャレンジ

さて、授業では「ロボットレシピ」からオウムロボットを高校生と一緒に制作し、プログラミングの基本を体験しました。子どもたちは意欲的です。自分からレシピにタッチし、作り方をどんどん調べる子どももいます。途中で考え込んでいた子どもは、高校生のお姉さんから「難しい? やってあげようか?」と声をかけられると「いや、いいです」とキッパリと断り、一人で粘ります。そうしてソニーの開発担当者の言葉通りに、子どもたちは短時間にプログラミングの基本を覚えてしまったようです。

ここで授業は一区切り。高校生司会者が「みなさん、これからが本番です。“文理サファリパーク”をつくることが今日の本番です! 自分の好きな動物をつくって動かそう。サファリパークのレールもつくって、汽車を走らせるよ」イェーイ! 高校生がみんなで盛り上げ、教室に笑いが起こります。

子どもたちは一斉に新しい課題「文理サファリパークづくり」にかかりました。ある班は、すでにだいぶ制作が進み、一目で恐竜とわかる形が出現しています。なぜこんなに早くできているのでしょう? 班を担当する高校生に聞いてみると「最初から恐竜をつくりたいという声が子どもから出たので、じゃあロボットレシピでの練習を飛ばしてやってみようと。この子たちはすごくやる気があります」子どもの意欲を汲み取って学習内容を変更する高校生。その臨機応変さはまるで本当の先生のようです。子どもたちは「これからプログラミングをやってみるところです!」と意気揚々と答えてくれました。

友だちや高校生とともに辛抱強く

ほかの班も健闘しています。友だちと活発にアイデアを出し合うようすが見られます。こうした自由課題では、自分で考案するロボットにモーターを組み込んで「形」をつくり、プログラムを考え、意図通りにモーターが動くようにしなくてはなりません。プログラミングには集中力や辛抱強さが必要です。

子どもたちはじっと考え、試し、何度もやり直します。せっかく組み立てたロボットも、モーターを交換するとバランスが崩れてしまいます。それでもあきらめず、高校生に「腕が前のほうに動くようにしたい」「首を左右に動かしたい」と自分の意図をハッキリと伝え、相談します。高校生はいろいろなモーターのしくみを教えながら、どれを選べばよいか子どもといっしょに考え、プログラムも見直します。授業は佳境です。教室は熱気に包まれ、小学生も高校生も頬を紅潮させて一生懸命取り組んでいました。

力作ぞろいのプレゼンテーション

「ロボット教室」の仕上げは、各班の作品のプレゼンテーション、そして最後に「文理サファリパーク」のコーナーでみんなの動物ロボットを動かします。 プレゼンテーションでは、子どもと高校生による汗と熱意の結晶が並びました。音を発する「ネッシー」、光る「地球外生命体」、脚の動く「バッファロー」、しっぽの動く「ジンベイザメ」、ドラえもんのタケコプターを頭に取り付け、それがくるくると回る「オウム」、「カメと竜宮城」はカメの頭が光ります。例の「恐竜」を手がけた班は、口をパクパクと大きく開けながら、体が前進するという力作を発表。

「プログラミングは難しかったけれど、みんなで相談しながら、高校生のお兄さんに聞きながら、精いっぱいつくりました」「工夫したところは恐竜の頭。ゴツゴツして、口は前歯があり、それが動きます。前進できるようにするのが大変だった」「体が巨大で、支えるのが難しかった」「高校生のお兄さんやお姉さんが優しく教えてくれました」……子どもたちはあふれんばかりの感想も発表しました。

「ロボット教室」を成功裏に終わらせた高校生はどんな感想を抱いているでしょう。「小学生と交流できて楽しかった! 気をつけたことは、子どもたちがわからないことだけをアドバイスすることです。基本的に小学生主体でやってもらいました」と男子生徒。女子生徒も「年下の子と触れ合う機会があまりないので楽しかったです! 人に教える機会を得たのはとてもよかった。プログラミングという自分たちにも難しいことを、子どもに分かるように言葉を選んで教えるのは難しかったです」「子どもがプログラミングを成功させて、動いた、光った! と喜ぶ姿を見て、私も達成感を感じました」――小学生と高校生、どもに手応え十分だった「ロボット教室」。西武学園文理小学校のプログラミング教育の発展が期待されます。

取材協力

西武学園文理小学校

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